7月ですが「五月のバラ」です。この曲を初めて聴いたのは1970年代の終わりごろ、テレビで見たと思います。歌っていたのは塚田三喜夫、初めて見る、聴く歌手でした。高音が綺麗に伸びて、カンツォーネを聴くようで「こんな歌手がいたのか」と感心すると同時に、日本でも、こんな美しいバラードを作る人が居るのだと嬉しくなったのを憶えています。それまではエンゲルベルト・フンパーディンクやトム・ジョーンズが私の“バラード”でしたから。
なかにし礼作詞、川口真作曲、 ♪忘れないで、忘れないで♪と大きく歌い上げる辺りは、正にフンパーディンク、ジョーンズ顔負けの旋律です。後にブレンダ・リーがカヴァーしたのも頷けます。
ところが、「徒然」を書こうと調べていると意外な事が解りました。この曲は、津川晃という歌手の再デビューの為に書かれたというのです。津川晃、Who?と更に調べると、なんと日独にルーツを持つポップス歌手、フランツ・フリーデルの事で、暫くのブランクのあと日本名で再デビューをした、という事でした。フリーデルと言えば、「電話でキッス」とか「さらばふるさと(ムシデン)」を歌って、鹿内孝や克己しげるらと黄金のポップス時代を築いた歌手の一人と記憶しています。
津川の曲は全く聞いた記憶はなく、塚田の「バラ」だけが強く印象に残ったのですが、その塚田三喜夫もいつの間にか映像メディアから消えてしましました。時折思い出しては、あの素晴らしい歌声は何処へ行ったのだろう?と思っていたところ、その後はミュージカルの世界で沢山の作品に出演している事が今回判り、「やっぱりなぁ」と腑に落ちました。後になって尾崎紀世彦のアルバムに「五月のバラ」を見つけて、塚田と同じ“カンツォーネ”風の大らかな歌声を楽しんでいます。尾崎は1973年のリリース、塚田の「バラ」は1977年にリリースされています。因みに、この曲をカヴァーしているのは鹿内孝、三田明、水原弘など18人、如何にプロ歌手が“歌ってみたい”曲か、よく判ります。残念ながら塚田三喜夫は2011年に58才で亡くなったそうで、歌っている映像はありませんが、彼の歌声はユーチューブで聴く事が出来ます。45年以上前に、こんな素晴らしい曲が、こんな素晴らしい歌手によって歌われていました。是非一度聴いてみて下さい。
出野徹之(KTV)
「五月のバラ」
♪ 五月 この僕が帰る (リフレイン)
まばゆい 五月 忘れないで 忘れないで
紅いバラは 思い出のバラは 時は流れ過ぎても
君の庭に咲くだろうか ♪ むせび泣いて むせび泣いて
別れる君と僕のために